
三吉 暹、橋本 法知、吉田 守の社外取締役3名が、取締役会での中期経営計画策定の過程や、加賀電子グループの今後について議論を交わしました。
三吉
「中期経営計画 2027(以下、新中計)」の議論にあたっては、当社グループが持つ商品・サービスを棚卸しして、強みと弱みがはっきりと見てわかるように、いわゆる「ポートフォリオ分析」を行って大きな絵を描くべきだと申し上げました。そのうえで、まず、今後何を重点的に伸ばしていくのか、方向性を明確にする。次にステークホルダー、従業員、顧客、株主、取引先、そして地域社会への取り組み姿勢を明確にし、定量的な目標を掲げること。とりわけ株主については、連結配当性向は「30~40%」、ROEは「12%以上」を掲げて、一段高い目標に向けて努力していくことが大切です。そして、資本コストとROEの関係をよく見極めて取り組むこと。資本効率を向上させるため、何をすべきかをしっかり考えてほしいと申し上げました。
具体的な展開にあたっては、手持ちの商品の伸びをまず見極めなければなりません。「売上高1兆円」という高い目標に向けて、小型無線モジュールのような新規ビジネスを精力的に導入していく。それからM&Aです。直近では協栄産業にTOBを実施しましたが、あと二つか三つは必要でしょう。良い案件が出てきたら、一気呵成に攻める構えでいなければなりません。
最後に強調したのが人財の活用です。ベテランや女性の活用、中途採用、技術者や外国人の採用などのテーマがありますが、これからは技術開発が益々重要になることを考えると、特に技術者を増強する必要があります。
橋本
当社は、他の人たちが気づく前にお客様に手を差し伸べる、すなわち、ビジネスの発想力が他社よりも高いことが強みです。また当社は、ビジネスの目的はお客様の助けになることにあると考えていて、それがまさにカタチになったのが、EMS事業といえます。お客様の要望に添って努力することで、当社にも利が出てくるという考え方です。このように、自分たちを世の中に対してどのように活かしていくかを一生懸命考えているのが当社の誇れる点だと考えています。
いまや、家電から自動車まであらゆるものに半導体は使われています。半導体が入っていない製品を探すことの方が難しい時代です。エレクトロニクス商社としてお客様にずっと寄り添い“何でもやりますよ”と言えるのが当社の良さ。この“加賀電子グループらしさ”を忘れずにやっていくことが、新中計の数値目標達成以上に大事だと考えています。期間中に耕した畑で将来何倍にも収穫できるよう、十分な種は蒔いているとの自負があるのが、当社らしい中計のあり方だと考えています。
こうしたなかにあっては、個々人の仕事がこの中計のどこにつながっているのかを絶対に見失わないことが大切です。自分の役割をしっかりと見出し、追いかけていく限り、この会社は絶対成長できると確信しています。目先のことにかまけて、考える力を失うことは絶対にあってはならないと思います。
吉田
私は、社外取締役に就任して1年となりますので、新鮮な視点から特に印象に残った点についてお話しします。
まず、 2025年度の事業計画の検討・策定の会議において、2030年度の売上目標についても議論されており、各事業会社の責任者の方が意欲的で、非常にアグレッシブな目標を考えておられます。そのお話を伺うと、それぞれの現場で、お客様が何に困っておられるのか、常に意識して取り組んでいることがよくわかります。この取り組みはまさに加賀電子の経営理念、「すべてはお客様のために」の実践にほかなりません。もちろん、簡単に到達できる目標ではなく、課題も多いと感じますが、「課題は経営の宝」の視点から課題を構築し、ぜひ、アグレッシブに挑戦いただければと考えています。トップダウンでトップから指示された数字ではなく、ボトムアップで高いターゲットに挑戦する経営、素晴らしい風土と思います。
また、三吉取締役がお話しになったポートフォリオ戦略ですが、常にお客様と接点を持つことで、どのような事業領域にどのようなソリューションを提供すべきか、常に意識されていますが、今後、新規の事業領域の開拓、事業会社間の連携の強化、さらには、トップへのM&Aの提案等も進めていただければと考えています。
「売上高1兆円」は非常に高い目標ですが、その実現にはマネジメント自体の改革も不可欠です。当社の経営理念、価値観、ビジョンを磨き上げ、全社で共有するとともに、グループ一体での戦略構築と高い成果に向けた挑戦、そしてマネジメントの改革と風土づくりに貢献できるように取り組んでいきたいと考えています。
三吉
ボトムアップができるのは、トップの指示を受け止める現場の感性が良いからです。当社の現場には“諦めない精神”が浸透しており、しぶとさがかなりあるなと、これまで社外取締役としてこの会社を見てきて感じています。こうした会社は、どんな局面にあっても、本当に強い。これからも、我々が目標をやや高めに示して、現場からその達成に向かって盛り上がってくる力に期待したいと思います。
橋本
取締役会では、全体感として直接目指すのが1兆円なのか、8,000億円なのか。そのなかでM&Aはどのくらいの規模を想定するのが妥当なのかといった議論がよくなされてきました。先ほどのお話のとおり、現場ではきちっとした積み上げがなされているので、やみくもに高い目標が設定されることはありません。上回った場合であれ下回った場合であれ、目指す数字に対する現状分析がしっかりとなされています。
基本的に全体を底上げしていかなければ、達成は見込めませんが、単に“もっとたくさん売ろうよ”ではなく、EMS事業をどこまで展開できるかも重要な要素の一つです。仮にM&Aがなくてもここまでは成長させたいという二軸で見ていくことが本来の姿だと言えるでしょう。
三吉
私は、この1兆円という目標は、非常に素晴らしいと思っています。そこへの道筋はいまから見ると遠いですが、ステップを踏んでいけば、ゴールは見えていきます。しかも武器はあるわけですから、ボトムを上げて達成を目指さない手はありません。
部品販売も重要ですが、部品をアッセンブリして付加価値を上げていかなければ儲かりません。中計の大きな課題です。
EMS事業は、海外市場を主力に展開していますが、これが、加賀電子グループの大きな資産です。このEMSをさらに進化させ、「EDMS」、「D」はデザイン(design)ですが、企画・設計・生産・品質保証まで一貫してやれる力を付けていくことが大事です。これまで、海外工場を2、3ヵ所視察しましたが、まだ工程能力が不足しているように感じました。私が期待しているのが、加賀タイランドの生産センターです。このセンターがさらに実力を付ければ、全体のレベルが上がっていきます。
EMS事業を高度化し拡大していくことが、当社グループの発展に大きく寄与すると思います。
吉田
当社のメインビジネスは商社ビジネスが中心であり、新たなお客様の獲得も含めて、お客様の事業の成功への貢献なくして売上を伸ばすことはできません。また、大きな成長には、M&Aによる成長、または事業領域の拡大、新規事業の育成もありますが、これらの事業での成功のカギは、その事業領域への親和性、事業を運営できる人財、そしてその領域の技術、これらの要素が不可欠です。
いずれの方法を採るにしても、自社の強み、弱み、持てる能力など、冷静になってよく考えることが欠かせません。私たち社外取締役は、加賀電子グループの強みと課題を冷静に見極めながら、さまざまな提言を行い、議論しています。
橋本
この事業取得は、非常に度胸のある決断だと感じます。加賀電子グループにとって初の、開発-生産-販売を一貫して手掛ける自社ブランドのデバイス製品であり、これが普及すれば、世の中が変わっていくような製品を手がけることになったからです。いったんこのような製品を手がけると、世の中にどう受け止められているか、どこが良くてどこを改善すべきかをすべて自分の手で分析し、他社に負けない製品をつくり続けなければなりません。そのための技術者集団をつくり上げる気概がなければ、やり続けることはできません。このモノづくりには、今年出た利益はすべて技術開発や人材獲得に回すくらいの覚悟がなければ生き抜いていけない、厳しさがあります。
三吉
この小型無線モジュールは、加賀EMS十和田と加賀タイランドで分担して100%自社生産しています。両社の強みを活かしつつ、それぞれがレベル向上を図っていく狙いがあります。先ほど述べたEMS事業の高度化への取り組みが一つ、加賀FEIと十和田のグループ内連携によって成し遂げられたことに拍手しました。これからもこのようなカタチが実現していくと、グループとして非常に発展性があると思います。
吉田
当社グループが引き継ぐ前は、製品としての技術レベルは高かったものの、顧客接点に課題があったと伺っていますが、当社グループは、顧客接点が非常に広いことが強みであり、その強みを活かすことで、市場性の高い商品ができており、非常に素晴らしいと思っています。これらの機能モジュール事業は、市場性を含めて、この先、大きな成長が期待できる領域だと考えていますが、今後の展開を考えれば、ソフトウェアの開発が課題となり、お客様が求める機能の実現、ソリューションの開発が重要になってきます。
加賀電子グループの技術部門が中心になって市場性の高い機能モジュールの開発を進め、大きな事業の柱に育成していただきたいと思います。
三吉
心から腹立たしいと感じています。私が一番嫌いな出来事で、人権尊重という非常に重要な精神が失われたことを悲しく思います。全社に蔓延しているわけではないため、専門家の先生にしっかりと指導いただくことがまず必要です。当社には、社員の声を吸い上げる「目安箱(内部通報制度)」がありますが、これが有効に機能していないのであれば、レベルを上げていくことが欠かせません。
橋本
私は今回、調査委員会の委員長として、徹底した事実調査とともに、再発防止策の提言などをまとめ、取締役会へ報告しました。この事案は、腹立たしいのは確かですが、まず、これが生じてしまった背景をしっかりと捉えていくことが必要だと考えています。
今回の事案には、当社が海外でEMS事業を成長させるにあたり、そのすべてを、現地責任者に負わせてしまったという印象が強くあります。海外では100人から200人の現地従業員を、5人から10人の日本人でマネジメントする環境ですから、一人でいくつもの仕事を抱えることになります。少数であるが故に、若手であろうと年配であろうと、会社が抱える課題解決のキーマンとなる重責は避けられません。
また、10年以上、同じ責任者に現場を任せてきたことも問題だったと考えています。いくら仕事ができるといっても、十数年も居れば、誰でも疲れてくるものです。交代機会を逃したと感じれば、苛つきが出るのも分からないではありません。
EMS事業が今後も当社の屋台骨を支えることは明らかですから、やってしまったことを真摯に受け止め、この課題をどう解決すべきかを深く突っ込んで検討し、腹を割って話し合い、組織として二度と起こらないように見直しを図るべきです。
三吉
上に立つ者が見過ごした、あるいは指導しなかった点は残念です。自分の尺度だけで判断するのではなく、どれだけその場の苛立ちを抑えてステップを踏んで育成できるか。部下の面倒見をしっかりできるように、管理職への教育を徹底すべきです。
また、当社の業務就業規則に「5年ローテーション」とあるのですから、長くやらせてしまったことに原因があり、人事部にも責任の一端はあると思います。
橋本
たしかに、長く居続けたことが原因ですが、ここは実に難しい問題です。仮に、5年ローテーションを規則通り運用すれば、現地人社員から“どうせ腰掛け”と受け止められてしまうリスクが高まり、マネジメントに支障を来します。
三吉
その点ではやはり、最終的には現地人社員をトップに据えないと、海外プロジェクトは上手くいきません。中国はすでにそうなっていますが、時間がかかっても、そのような方向性に進まざるをえないと担当役員にも申し上げました。
吉田
橋本取締役のお話しの通り、幹部全員で会社としてどうあるべきかをとことん議論し、とくに人権に対して一線を越えてはならないとの共有の価値観をつくり上げていくことが非常に重要です。 企業として、人間関係に対する考え方、人を大切にする価値観を経営理念としてつくり上げ、風土化するとともに、当事者をどう再生させるかについても助言していきたいと考えています。
トップ自身、常に感謝の気持ちをもち、頭(こうべ)を垂れる大切さを伝えていきたいと思います。
橋本
海外でのEMS事業は、当社にとって絶対に育てていかなければならないビジネスです。このような事案が二度と起こらないように、海外拠点管理や工場管理に正面から取り組めば、その結果、このようにビジネスを進化させることができたと振り返ることのできる一つのステップ、当社の将来にとって非常に大きな財産になることは間違いありません。