2024年3月期の経済情勢は、国際情勢が一段と不安定になるなか、中国経済の停滞や米中貿易問題など、先行き不透明な状況が続いております。一方、我が国経済は、物価上昇や為替の円安が進行するなか、個人消費が持ち直すなど、緩やかな回復基調が続きました。
当社グループが属するエレクトロニクス業界においては、半導体・電子部品の供給不足緩和にともない車載関連市場では需要拡大が継続しましたが、産業機器市場等では調整局面が続いております。
このような経営環境のもと、電子部品事業において半導体や電子部品の供給不足緩和にともなうスポット需要の消失や株式会社エクセルの海外子会社における特定顧客向け取引の縮小、更には第3四半期以降に本格化した在庫調整の影響を受け、売上高は、5,426億97百万円(前年比10.8%減)となりました。
営業利益は、売上高の減少にともなう売上総利益の減少に対して販売費及び一般管理費の削減に努めましたが、258億45百万円(前年比19.9%減)、経常利益は259億76百万円(前年比20.7%減)となりました。親会社株主に帰属する当期純利益は、投資有価証券売却益や負ののれん発生益など特別利益の計上もあり、203億45百万円(前年比11.8%減)となりました。
2024年3月期は前提として、電子部品事業において、半導体・電子部品の需給緩和にともなう「客先での在庫調整の影響」と、前期・前々期と収益拡大に寄与した「スポット需要の消失」の、二つの要因を織り込み、「減収減益予想」でスタートしました。この1年を振り返りますと、「スポット需要の消失」は想定どおりでしたが、「在庫調整の影響」は、上期段階では、期初想定したほど発現せず、売上高、営業利益とも社内計画を上回って折り返しました。一方、下期に入ると在庫調整の影響がいよいよ本格化した結果、営業利益の上振れ幅は徐々に縮小していきました。最終的には、期初予想比では超過達成し、概ね堅調な着地となりました。
エレクトロニクス関連市場は、車載向けを中心に中長期的に拡大していくものと予想されますが、顧客の在庫調整は当面継続することが見込まれ、本格的な需要回復は2025年3月期後半からになるものと思われます。また、当社グループでは、将来成長に資する人的資本への投資として2024年4月より賃上げを実施いたしました。これらの状況を踏まえ、2025年3月期は、売上高5,550億円、営業利益・経常利益は260億円、親会社株主に帰属する当期純利益は180億円の予想としております。賃上げにより約15億円の費用増となりますが、この影響を織り込んでも、今期は「増収増益基調への回帰」を果たす年にしたいと考えています。
当社は2024年10月1日付で株式分割の実施を予定しております。投資単位を引き下げることにより、個人投資家の皆様にとってより投資しやすい環境を整えるとともに、当社株式の「流動性の向上」と「投資家層の更なる拡大」を目的に、9月30日を基準日として、当社普通株式を1株につき2株の割合をもって分割いたします。今回の株式分割に伴い、2025年3月期末配当は、1株当たり55円になりますが、分割比率に応じて実施するものであり、実質的な変更はありません。
当社は、連結配当性向25%~35%を目安として安定的な配当を実施することとしています。2024年3月期は減益となりましたが、この考えのもと1株当たり配当金は前年と同額の220円とさせていただきました。また、
2025年3月期においても最終利益は減益予想でありますが220円(株式分割前換算)を予定しております。
2024年1月25日、資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応方針を決定いたしました。今後も当社が株主資本コストを上回る収益性でROEを持続的に向上させ、当社の事業や成長性に対して株式市場から正当な評価を受けることでPBRを改善し続けるために、『中期経営計画 2024』にて策定した諸施策の着実な実行をはじめとする、以下の4つの取り組みに注力してまいります。
当社は、2021年11月に3ヵ年の『中期経営計画 2024』を公表しました。計画初年度となる2023年3月期(2022年度)は、世界的に半導体・電子部品不足が続く中、当社グループの調達力の強みを最大限発揮して、スポット需要に積極的に対応した結果、新規M&A目標を除き、売上高、営業利益ならびにROEのすべてのKPIにおいて、2年前倒しで最終年度の経営目標を達成しました。
このような初年度の実績を踏まえ、最終年度の業績見通しをアップデートし、2023年5月11日に「最新見通し」として公表しました。2024年3月期(2023年度)実績ならびに2025年3月期(2024年度)予想は、電子部品事業においてスポット需要の消失や客先における在庫調整の長期化および賃上げといった環境変化もあり、営業利益およびROEは当初の計画値を上回る水準で推移する見通しですが、最新見通しに対しては、売上高および営業利益において今一歩及ばない状況にあります。
2025年3月期については、2024年5月9日に公表しました業績予想は、ステークホルダーの皆様に対する「コミットメント」として、また最新見通しは「チャレンジ目標」として位置づけ、当社グループ一丸となって『中期経営計画 2024』最終年度の総仕上げに取り組んでおります。
本計画においては、「更なる収益力の強化」「経営基盤の強化」「新規事業の創出」「SDGs経営の推進」の4つを基本方針として掲げております。それぞれの重点課題に対する取り組み状況につきましては、概ね当初の計画に沿って進捗しているものと認識しています。
「更なる収益力の強化」につきましては、EMSビジネス、海外ビジネスの強化・拡大として、2024年4月よりメキシコ新工場を始動させることができました。また、「経営基盤の強化」につきましては、人的資本への投資に積極的に取り組み、男性社員の育児目的と特別休暇の取得が進んだほか、グループ横断的な賃上げも実現いたしました。
一方で、「新規事業の創出」につきましては、CVCを活用したベンチャー企業に対する出資を進めましたが、新規M&Aは現時点では具現化できておらず、引き続き継続課題として取り組んでおります。
創業60周年を見据えた当社グループの成長シナリオを株主・投資家の皆様にお示しすべく、2026年3月期(2025年度)からスタートする次期中期経営計画の策定に着手しています。
現時点(2024年9月)では、まだ具体的なことをお話しすることは差し控えますが、現行の『中期経営計画 2024』で定めた重点施策をバージョンアップさせ、既存のビジネス領域においては、事業ポートフォリオ運営を強化していきたいと考えています。すなわち、事業ポートフォリオを再定義し、各ポートフォリオの市場成長性や競争優位性などを踏まえ、中期的な戦略の方向性を定めることを考えています。社長就任以来、私が掲げている「利益重視の経営」をさらに一歩進め、各ポートフォリオの事業推進にメリハリをつけるとともに、事業投資や人財投資の意思決定に活用することも想定しています。また、当社グループの非連続な成長を実現するためのM&Aや新規事業の創出にも引き続き挑戦していきます。
事業推進による経営数値目標の達成と資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた資本政策を実施することも重要な検討課題です。稼いだ利益・キャッシュを成長投資や株主還元などにどう配分していくかという、キャピタルアロケーションの方針、併せて、現在の「配当性向25%~35%」を基本とする株主還元の在り方についても見直しの議論を重ねているところです。
次期中期経営計画の詳細は、2024年11月に公表を予定していますので、是非ご注目いただきたいと思います。